金融政策の目的は失業率改善だそうです。完全に破綻しているリフレ派のデフレ脱却理論

リフレ派の論客、上念司氏。

専門の経済だけでなく政治から国際事情まで豊富な知識に基づいた解説と話術が特徴で、ぼくも5年以上前から動画や著書などで追いかけてきました。

しかし日銀量的金融緩和の効果が怪しくなってきた昨今でも、アベノミクスの成果を吹聴する姿に不信感を抱くようになってきました。

幸いなことに、著書や動画などで昔の発言や主張を確認できますので、彼の正当性を少しチェックしたいと思います。

金融政策の目的は失業率の改善?

約一年前にアップされた動画『時代遅れの経済本を叩き切る!〜実態の無い経済予想〜【CGS 日本経済 上念司 第64回】』で以下の発言をしています。(できるだけ忠実に書き起こしていますが、多少わかりやすく表現を変えています)

経済政策が何のためにあるかというと、全体をよくするためにある、全体がよくなるっていうのは、どういう数字を見て全体が良くなったか悪くなったか判断は非常に簡単で、失業率をみればいいんです。金融政策は失業率を下げるためにあるんです。就業者数を増やすためにあるのです。そのための物価の安定なんです。じゃあここまでの流れをみてみると、今の政策を例えば黒田さんが2倍の強さだったら多分もっとインフレ率が上がっていたんですけど、今ぐらいの強さではあまり響かなかったかもしれないけど、少なくともマイナス状態は脱して、増税の悪影響はあったにせよ、失業率はかなり下がった。就業者数はものすごく増えた、ということは実体経済に効果がでている。(リフレ否定派に対し)何をもって実体経済にお金が回っていないかという数値の根拠を言えっていってるんですけど、私の場合は失業率と答えるのですが、答えないでしょ、わかってないんです。

金融政策の目標である2%のインフレ率が達成できていない時点でリフレ政策は失敗だと思うのですが、上念氏は失業率が下がって就業者が増えたから成功でしょ、と主張しているのです。

おそらく普通の人がそのような言葉をマシンガントークでまくし立てられたら、「そうなのか」と思ってしまうでしょうが、ぼくは昔の彼の著書との矛盾に気づくためにどうしても不信感を持ってしまします。

マネタリーベースを増やしたら、時間差はあるがマネーストックも増えると主張していた過去

具体的に彼の発言にどのような矛盾があるのかを確認するために、上念氏の著書『「アベノミクス亡国論」のウソ』を少し読み返してみました。

この本での主張は、日銀の量的金融緩和によりマネタリーベースを増やしたら、数年単位の時間がかかるがマネーストックは増える。マネーストックの増加と2年後のインフレ率の上昇には相関関係があるから、インフレ率2%はマネタリーベースを増やし続けていればいずれ達成できる、というものです。

その根拠として、嘉悦大学教授の高橋洋一氏の記事をあげています。

「貨幣数量理論は成り立たない」を検証する

この記事では、以下のように主張しています。

マネーストックのコントロールはどそれほど難しくない。それでは、どの程度、マネーストックのコントロールは難しいのか。ここでは、マネタリーベースは日銀がコントロールできるとしておく(この点でも些細な反論があるが、それを一応考えない)。

マネーストック=k×マネタリーベース

であるが、kが変動し、マネーストックはマネタリーベースの6~12倍程度になっている。

つまり、過去はマネタリーベースの6~12倍程度でマネーストックが増えているということですが、では実際に量的金融緩和後も当てはまるのかをみてみましょう。

マネタリーベース
マネタリーベースの1970年から2018年までの推移 出典:日本銀行
マネーストック(M3)
マネーストック(M3)推移 出典:日本銀行

マネーストックがマネタリーベースの6倍増えるとしたら、マネーストックは2013年以降年間80兆円×6の420兆円増えないと数式は成立しませんが、グラフで見る限り2013~2018年まで年間30兆円程度しか増えていません。これだけでリフレ派の理論が破綻しているのがわかります。

さらに上念氏は次のように主張します。

日銀がインフレ目標2%を達成するまで断固たる決意で金融緩和を継続すると、景気回復は持続します。その過程で企業はより多くの利潤を求めて投資しようとしますが、自己資金が底をつき始めます。そうなったとき始めて銀行でお金を借りることになるわけです。昭和恐慌の際に自己資金を使い果たすまでの期間は約3年半でした。

しかし実際は、企業は自己資金を貯める一方です。しかも現在上念氏が主張している失業率の改善について、この本では全く述べていません。金融緩和の目的は2%のインフレ目標を達成することによる景気回復だとはっきり主張しており、それが達成できていない現状を素直に認めるべきではないでしょうか?

あと気づいたのですが、上念氏はこの本の中でマネーストックについて以下のように説明しています。

マネーストックは中央銀行がコントロール可能なお金(マネタリーベース=MB)と民間企業や個人が保有するお金を合計したもので…(略)。

マネーストック(MS)=マネタリーベース(MB)+通貨保有主体が保有する通貨量の残高=約1141兆円(2013年3月末日現在)

もしかしてマネーストックにはマネタリーベースが含まれると勘違いしていたから、マネタリーベースを増やしたらマネーストックが増えると確信していたのでは?

まさかね。

まとめ

  • 上念氏は現在、金融緩和の効果として失業率の改善を主張している
  • しかし5年前の著書では、金融緩和と失業率の改善の関係に触れていない
  • 上念氏は本の中で、マネタリーベースを増やすと3年程度でマネーストックが増えると主張
  • 実際はマネタリーベースの増加を下回る増加率でしか増えていない
  • 上念氏は金融緩和の効果で、企業が投資をするので自己資金を減らすと主張していたが、実際は正反対のことが起きている