安い非正規の労働力にアクセスできる段階では設備投資が増えない

アベノミクスの効果が実感できないとの声をよく聞きます。どんな時代でも儲かっている人とそうでない人は必ずいるので、アベノミクスが完全に失敗したとはいえませんが、アベノミクスの第一の矢「大胆な金融緩和」によるインフレ率2%の達成が5年以上達成できていない現状は、決してアベノミクスがうまくいっているとは言えないのも事実です。

アベノミクス当初は、大胆な金融緩和によるインフレ率2%を約束することで、将来の「インフレ期待」により消費や設備投資が増えるとの触れ込みでした。

しかし現状は御覧の通りです。

家計最終消費支出推移
家計最終消費支出推移 出典:NIPPONの数字
民間設備投資推移
民間設備投資推移 出典:NIPPONの数字

設備投資に関しては堅調に伸びているともみえますが、経常利益の増加率に対して見劣りすると言わざるを得ません。

民間企業業績推移(利益)
民間企業業績推移(利益) 出典:NIPPONの数字

安い非正規の労働力にアクセスできる間は設備投資を控える企業

なぜ、企業は過去最高水準の業績をあげているのに設備投資をそれほど増やしていないのかというと、安い労働力にアクセスできる雇用環境があると推測できます。

設備にもよりますが、企業にとって設備投資はコストだけでなく、計画から実行するまでの時間や労力がかかる高負担の作業になります。生産性を高める手っ取り早い方法が、必要なときだけ雇える非正規労働者の採用です。

設備投資したとしても長期的に確実に需要があればいいのですが、そうでない可能性がある場合、よりリスクの低い選択肢を選ぶのは自然な流れです。また「インフレ期待」があるとすれば、金利の低い今のうちに躊躇なく設備投資をするのでしょうが、実際はそうなっていません。

アベノミクス以前の流れですが、労働者のうち非正規の割合は徐々に増加し、今では労働者の約4割が非正規労働者です。しかも、家計の可処分所得が減ると同時に高齢化が進むことで女性や高齢者の労働参加者が増える傾向にあります。企業にとって、安い労働力というのは現実的な選択肢になっているのです。

正規雇用と非正規雇用労働者の推移
正規雇用と非正規雇用労働者の推移 出典:東洋経済

安倍政権下で失業率は下がり就業者数は251万人増えましたが、そのうち女性が201万人で、また高齢者就業者数の増加が目立ちます。もし約30年前のように非正規労働者の割合が20%以下だとすると、企業はより高賃金の正規労働者を雇う必要があるため、これほどの失業率の低下は難しかったのではないでしょうか?

とはいえ、企業は人手不足をなんとかして解消しなければなりません。企業は非正規労働者にアクセスできない場合、正規雇用労働者を増やそうとしますのでもっと賃金はあがります。さらに人手不足が進むと労働者の増加で対応できないため、現状の人数で生産を増やせるように設備投資を進めるのです。

そうすることでさらに需要が増え人手不足が加速し、設備投資が増えるという好循環に入ります。それが1954~1973年の高度成長期に起こりました。確かに人口が増えているから成長した一面もありますが、人口増加率は年1%程度なのに対し成長率は年10%以上あったのです。

人手不足は経済成長のチャンス

人手不足は経済成長のチャンスなのです。なのに安倍政権は、「一億総活躍社会」や「働き方改革」、外国人労働者受け入れという愚策により安い労働者を増やそうとしています。

その理由は、安倍政権が誰のために政策を考えているかを知れば理解できます。安倍政権は、企業の利益を最優先しているため、安い労働力を増やすような政策に力を入れているのです。

労働者を優先するのであれば、国民負担率の増加をどう説明するのでしょう。さらに消費増税をしようとしているではありませんか。過去最高水準の業績や株高で儲かっている企業や資産家に増税しないのはなぜでしょう?

国民負担率(対国民所得比)の推移
国民負担率(対国民所得比)の推移 出典:財務省

一般の国民はさらなる増税により可処分所得が減るため、さらに女性や高齢者が労働市場に参加せざるを得なくなります。「一億総活躍社会」にまた一歩近づき、企業は設備投資をするのを控えるでしょう。一億人が働く社会まで、あと3千数百万人残っています。こんな政策で、国民が豊かになる日は本当に訪れるのでしょうか?

まとめ

  • 安倍政権下で企業業績は過去最高水準にあるが、設備投資の上昇率は低迷
  • 設備投資の低迷は、安倍政権下で女性や高齢者、外国人労働者などの安い非正規労働者が増えたのが要因か?
  • 企業は労働者の増加でも生産が追い付かない場合、設備投資で生産性を高める
  • 人手不足は経済成長のチャンスで、高度成長は人手不足による設備投資の増加が一因
  • 今後の増税や社会保険料負担増加で、女性や高齢者の労働市場参加が増える可能性あり