政府の借金は国民の資産。多くの問題の元凶がいわゆる「国の借金」への誤解

江上治氏の新著『残酷な世界で勝ち残る人の考え方』から抜粋した記事が掲載されていました。

サラリーマン3人に1人が非正規、4人に1人がワーキングプア――残酷な世界で勝ち残る人の考え方

国税庁によれば、現在、年収200万円以下のワーキングプアと言われる人たちは日本で1,131万人いるという。非正規やワーキングプアの立場に甘んじることなく、別の生き方を模索するためにも、まずは日本の現状について学んでいこう。

との一文から始まるこの記事では、日本経済や労働環境の厳しさをデータに基づいて解説していきます。

9%以上の経済成長が約20年続いた夢のような高度成長の時代はとうの昔で、今やGDPで中国に抜かれ、2015年の一人当たりの名目GDPはOECD加盟国中20位という有り様です。

さらに租税負担と社会保障負担は年々増加し、高度成長真っただ中の1970年(昭和45年)に24.3%だった国民負担率は、2016年(平成28年)には43.9%と20ポイント近く高くなっているといいます。

とここまでは事実を述べているのですが、この後ありがちな「財政破綻論」に入っていきます。

国民負担率を高めないと財政が危うくなるという誤解

江上氏は以下のように説明します。

なぜ、こんなに社会保険料が高くなったのか。後で見るように、日本の財政はどうにもならない借金財政に陥っている。借金は、税金や社会保険料で埋め合わせなくてはならない。そうしなければ、国家財政も社会保障制度も危うくなる。

江川氏は、政府の借金と家計の借金を混同しているようです。政府の借金と家計の借金の大きな違いは、政府は通貨を発行できるのでインフレ率や金利が許す限り、理論的には無限に借金ができます。一方家計の場合、借金が膨らむと返済リスクが高まり、誰もお金を貸してくれなくなります。

信じられないかもしれませんが、市場で日本政府はかなり信用されています。感情的には反発したくなるでしょうが、マイナス金利、つまりマイナス金利分のお金を払ってでもお金を貸したい金融機関があるのが証拠です。

さらに、税金や社会保障料を増やしているにもかかわらず、政府債務残高が増えていることも無視できません。むしろ、国民負担率を上げているからこそ経済活動が停滞し、税収が落ち込んでいる可能性をファイナンシャル・プランナーであれば考慮してほしいものです。

また江川氏は、財政赤字と人口減のため日本はどんどん稼げない国、活力のない国になるといいます。ぼくはむしろこのような考え方こそ、日本を衰退させるのだと思います。

人口減はとりあえず置いといて、「財政が危うい」という誤解さえ解ければ国民負担を増やす必要もなくなり、国民の生活が豊かになると思います。

政府債務残高が家計の金融資産を超えるのは不可能

さらに江川氏はいいます。

日本の国家財政が借金まみれであることは、だれでも知っている話だが、現在の借金は国債と借入金、政府短期証券を合計した総額が、2016年12月末時点で1066兆4234億円に達しているとのことだ。~中略~ 家計資産残高は2016年12月末時点で1800兆円となっている。辛うじて借金よりは多い。しかし、このまま野放図に借金が増えていけば、遠からず貯蓄に借金総額が追い付き追い越す恐れがある。

この勘違いは、内閣府のデータから作成した以下のグラフで証明できます。

政府債務が増えると、家計資産も増えるのです。これは大原則、「誰かの借金は誰かの資産」があるから当然です。政府が赤字国債を出すと、社会保障などの形で誰かの資産になるのです。なので江川氏のいう「国の借金」が、家計の資産を超えることは不可能なのです。ファイナンシャル・プランナーがこの程度のことも理解していない、そのことが日本の将来を暗くしている要因なのかもしれません。

ちなみに以上のことは、日本の国債の9割以上が国内で消化されているため成立します。国債が外債で運用されている場合、ある国の借金が別の国の投資家の資産になってしまいます。国債の何割が内債・外債なのか、自国通貨建てなのかが国債リスクの大きな要因となり、残高のGDP比のみでギリシャやイタリアと同一視するのは大きな間違いなのです。

記事ではその後、ワーキングプアやロボット、AIなど興味深い話が続いていますが、前提に誤った財政破綻論があるから説得力を欠いてしまっているように感じます。

経済に詳しいはずのプロでさえ、マスコミのいわゆる「国の借金」報道と同じレベルの認識しかありません。インターネットの普及でその間違いに気づく人も増えてきましたが、大多数は「日本の借金は1000兆円を超え、将来は暗い」とのイメージから抜け出せていないのが現状ではないでしょうか?

そんな状況で消費を増やしたり家庭を持ったり、子どもを育てたいとは思わないでしょう。なので、「国の借金」の誤解さえ解ければ良い方向に流れるのではとの希望もありますが、昨今の消費増税を巡る報道を見る限り、しばらくは難しいのかと感じます。

まとめ

  • 高度成長期に24.3%だった国民負担率が2016年に43.9%に
  • 財政赤字を解消するための増税や負担増が、むしろ財政赤字を拡大してきた
  • 「財政が危うい」という誤解こそ、日本の将来を暗くしている
  • 日本の場合、政府債務残高が家計の貯蓄総額を超えることは不可能
  • 景気の停滞も少子化も、「国の借金」の誤解が大きく影響している