鈍い賃金上昇。実際の労働生産性はかなり高まっているのでは?

最近は、人手不足の割に物価や賃金があがらないなあ、という報道が増えてきたように感じます。

以下の記事もそうですが、この中にはとても重要な示唆が含まれています。

焦点:需給ひっ迫でも鈍い物価、分析急ぐ日銀 生産性上昇との関連で

4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、この物価の動きについて、1)人々のデフレマインドの根強さ、2)企業が省力化投資の拡大やビジネス・プロセスの見直しなど生産性の向上による賃金コスト上昇の吸収の動き──を挙げた。生産性上昇を巡っては昨年7月の展望リポートで、近年は労働生産性の上昇が実質賃金の伸びを上回っておりインフレ率をマイナス0.2%ポイント程度押し下げているとの試算を示した。ただ、こうした物価下押し圧力は「一時的な現象にとどまる」とも分析していた。だが、それから1年近くが経過したものの、物価が明確に上昇していく気配はうかがえない。

日銀が分析しているように、物価があがらないのは①人々のデフレマインドの根強さ、②生産性の向上による賃金コスト上昇の吸収の動き、が大きく影響していると思います。

物価があがらないのは賃金が低迷しているから

①の人々のデフレマインドの根強さについて。デフレとは「モノやサービスの価格が下がる」ことなので相対的にお金の価値が高まります。ですが実際のところ、人々がデフレを意識して消費を抑えているのではなく、なんとなく将来が不安だからお金を貯めているのではないでしょうか。なぜ将来が不安なのかは、増税や賃金の低迷で使えるお金が増えないのが大きな理由です。

②の「生産性の向上による賃金コスト上昇の吸収の動き」についても、結局は生産性向上が賃金上昇の圧力になっています。つまり、賃金が低迷しているから消費が増えず、物価があがらないのです。これらの分析はすでに1年前から出ており、「一時的な現象にとどまる」としていましたが現在でも継続しています。

なぜ一時的な現象にとどまると楽観していたのかは、今主流の新古典派経済学では生産面を重視し「長期的に見れば生産と需要は均衡する」と考えているからだと推測します。これはインフレ時には正しいのですが、デフレ時には需要が低迷してるので採算割れするまで価格を下げないと売れないケースもでてきます。デフレ時には需要面を重視するケインズ経済学が必要なのです。

今後は賃金と物価の上昇トレンドになるのか

人々のマインドは賃金があがれば改善されるはずですが、賃金があがるかは大いに疑問です。それは、「生産性の向上による賃金コスト上昇の吸収の動き」が思った以上に大きいと思うからです。

実際には、生産性がどこまで高まっているのかは計測できません。労働生産性は、GDP÷(就業者数または就業者数×労働時間)で算出しますが、当然GDPが伸びない経済状況では労働生産性は高まりません。GDPを何が決めるかは諸説ありますが、このブログではケインズ経済学に則りデフレ時には需要がGDPを決めるとしています。つまり、需要が増えれば労働生産性が高まるということになります。

以下のグラフは、名目労働生産性水準の推移です。

GDPが堅調に伸びていたバブル崩壊から数年までを経て、日本は約20年ゼロ成長に陥りました。その間、労働生産性が伸びていません。労働生産性の分子がGDPである以上当然なのですが。

しかしその間、本当に生産性は向上していなかったのでしょうか?「人はグダグダしているだけでも生産性が向上する」という研究もあります。労働者であれば実感すると思いますが、まったく同じ仕事を1年間続けると、かならず同じ仕事が短時間でできるようになります。実体験では、約20%ほど生産性が高まるように感じます。しかもITやロボットの進化は目覚ましく、製造現場を中心に導入されてきました。

これは完全に推論なのですが、実は日本の労働生産性は飛躍的に伸びているのだと思います。そう想定すると、「生産性の向上による賃金コスト上昇の吸収の動き」が思った以上に大きく、人手不足にもかかわらず賃金があがらないことが説明できます。

「生産性が向上していたら人を雇う必要ないじゃないか」との反論もあろうと思います。その回答も推論になりますが、「就業者の増加率が特に高いのは女性と高齢者」という実際のデータがあるので、外国人を含むできるだけ安価に雇える労働者に置き換える動きが加速してるのではないかとも思います。

機械受注が好調です。

4月の機械受注、前月比10.1%増 市場予想2.5%増

内閣府が11日発表した4月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比10.1%増の9431億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は2.5%増だった。

機械受注の推移 出典:NIPPONの数字

常識であれば需要が高まり賃金上昇につながるのですが、さらに生産力が向上し賃金の下げ圧力になるというこれまでのフェーズでは想定できなかった事態も考える必要がありそうです。

タイミング悪く2019年10月かに消費増税を控えています。家計の消費が増える好材料がみあたらず、しばらく賃金や物価上昇トレンドに入るのは難しいのではないでしょうか。

まとめ

  • 人手不足にもかかわらず賃金や物価の上昇が鈍く、政府が原因究明を進めている
  • 生産面を重視する新古典派経済学では原因の特定は難しい
  • デフレ期にはGDPは需要が大きく影響するので、賃金が上昇して消費が伸びないと物価はあがらない
  • 約20年間労働生産性はほとんど伸びていないが、実際にはかなり高まり賃金の下げ圧力になっているのでは
  • 機械受注が増えているが、さらに賃金の下げ圧力になる可能性もある