広がる合成の誤謬。政府まで合理的に行動したら国力が衰えます

将来が不安だから貯蓄しよう。これは正しい考え方でしょうか?以下のような記事が溢れる中、将来に備えた貯蓄が当然のように考えられているようです。

2025年問題とは国民の20%が75歳以上の超高齢化社会!そのための老後資金を効率的に貯めるには?

実はこの800万人いるといわれている団塊世代が、全員75歳くらいになる頃が2025年。国民の5人に1人が75歳以上という、超高齢化社会に突入する「2025年問題」です。(中略)現役世代には老後不安・年金不安がつきまとうなか、2025年問題をどのように考えていったら良いのでしょうか。老後資金に絞って考えてみたいと思います。

○○○○年問題って、胡散臭いです。団塊の世代が大量に定年退職を迎えた2007年問題やコンピューターが誤作動するといわれた2000年問題など、過ぎてしまえば問題なんて起きず忘れ去られてしまう程度の問題がほとんどです。

人が合理的に行動した結果招かれる不幸「合成の誤謬」

とはいえ貯蓄は大切です。まったく貯蓄をせずに、借金をしないまでも散財を繰り返していると貧しい老後が待っています。なので、家計が貯蓄をするのは合理的な行動だといえます。

しかし、みんながみんな貯蓄をして消費が落ち込むと経済成長が低迷し、税収が増えないので社会保障費が削られ、さらに将来不安が増すという「合成の誤謬」が生じることを認識する必要があります。

特にデフレ期にはお金の価値が上昇する一方で所得が増えないため、家計の貯蓄志向は高まります。家計の消費が落ち込むと経済活動が低迷し、企業も設備投資などの消費や投資を控えるようになります。そのため自然と政府の役割が増してくるのです。

そこまで認識できたら、民間の消費や投資が落ち込んでいるデフレ期に必要なのは政府支出の拡大が必要だと気づくはずです。しかし残念ながら国民の大勢は、「俺たちが節約して苦しんでいるんだから、政府が税金をばらまくのは許さない」といった感情を持っているようです。さらに悪いことに、政府までその気持ちに呼応し、政府支出を削減してしまったことです。それが経済のゼロ成長が続いた「失われた20年」で、2019年10月の消費増税でさらに経済低迷のスパイラルに入ろうとしています。

名目GDP推移 1968~2016年
名目GDP推移 1968~2016年 出典:NIPPONの数字

新自由主義が合成の誤謬と格差を広げる

新自由主義を、日本総研は以下のように定義しています。

新自由主義(しんじゆうしゅぎ、英:neoliberalism、ネオリベラリズム)とは、 国家による福祉・公共サービスの縮小(小さな政府、民営化)と、大幅な規制緩和、市場原理主義の重視を特徴とする経済思想。

新自由主義にもいろいろあるようで、この定義に収まりきらないという主張もあるでしょうが、ここでは話が複雑になるのでこの定義を前提に話を進めます。

新自由主義が、いつの時代も有効ではないとはいいません。現在の日本の政策に大きく影響しているように、これまでの時代にマッチしてきたから市民権を得たのでしょう。市場原理主義は規制を緩和することで民間の競争を促進しますので、供給力は高まりモノやサービスの価格が下がるため、インフレ時には有効です。1970年代から1990年代までの世界的なインフレを抑える効果はあったのでしょう。しかし今は、世界的にデフレ傾向にあります。

デフレ期にモノやサービスの価格が下がる新自由主義的な政策を進めると、当然デフレが深刻化します。デフレが深刻化すると政府の役目が大きくなりますが、国家による福祉・公共サービスの縮小(小さな政府、民営化)を良しとする新自由主義の考え方では政府の貢献も限定的になります。

一方で、世界的に新自由主義が主導する経済でグローバル化は加速します。デフレ期には企業は低コストでモノを生産できるため、輸出で稼げるようになります。企業が儲けてもデフレ期に縮小する内需に投資をしようとせず、海外への投資を増やすので豊かになるのは一部の人のみで格差は拡大します。

新自由主義的政策が本格化した2000年ごろから実質賃金が下がる一方で、企業業績は右肩上がりになっているのが何よりも証拠です。

実質賃金推移 1990年~2018年3月 出典:NIPPONの数字
民間企業業績1990~2016年 出典:NIPPONの数字

しかしこれも民間、企業、政府が合理的に行動した結果なのです。せめて合成の誤謬の存在を認識し、政府の一見非合理にみえる活動を容認する寛容な心を持つことが求められています。

まとめ

  • 貯蓄は合理的な行動だが、その行動が行き過ぎると経済が低迷し個人の不利益につながる合成の誤謬が生じる
  • デフレ期には民間が消費や投資を控えるので、国民経済のためには政府の支出拡大が不可欠
  • 節約を強いられる国民は、政府支出拡大を許容する余裕がなくなっている
  • 新自由主義的な政策は合成の誤謬と格差を拡大する
  • デフレ期に合成の誤謬を解消するため、政府の非合理的な行動が必要になる