騙されてはいけない。外国人労働者受け入れを推進したい経済学者の論理展開

昨日のエントリーでは、人手不足の中伸びない実質賃金について考察しました。

働き方改革でさらに貧困化が進む?雇用の規制緩和で伸びなくなった実質賃金

加速する人手不足の中人材を確保するため、企業は賃金を上げているのかといえば、そうでもなさそうです。

奇しくも同日の7月1日に、野口 悠紀雄氏がほぼ同じテーマで記事を投稿していました。

人手不足が深刻化するのに、実質賃金は下落する

「医療介護従事者が全体の4分の1になる」で、 今後の日本経済で人手不足が深刻化すると述べた。では、それによって賃金は上昇するのだろうか?

野口 悠紀雄(のぐち ゆきお、1940年12月20日 – )のプロフィールは、Wikipediaによると以下の通り華々しいものです。

日本の元官僚、経済学者[3]。専攻は、日本経済論、ファイナンス理論[3]。一橋大学教授、東京大学教授、青山学院大学大学院教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学教授を経て、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授[3]。

恐らく経済界ではそれなりの発言力・影響力のある人なのでしょうが、どうしても突っ込んでおかないといけない箇所があるので、僭越ながら物申させていただきます。

医療介護従事者が全体の4分の1になるのか?

まず、同氏の論理展開をざっくりと説明すると、

医療介護従事者が全体の4分の1になる → 医療介護従事者の賃金は安い → 実質賃金の低下、といものです

「医療介護従事者が全体の4分の1になる」については、「医療介護従事者数と65歳以上人口の比率が2025年以降は一定になる」との仮定に基づいて推計しています。

つまり、「医療介護従事者数と65歳以上人口の比率が2025年以降は一定になる」との仮定が成立しない場合、同氏の理論は破綻することになります。

実はすでに、「医療介護従事者数と65歳以上人口の比率が2025年以降は一定になる」という状況が難しくなっているのです。

介護職員の不足問題、2025年までに解決なるか?

厚生労働省が発表した需給推計によると、2025年度には介護職員が約253万人必要になるとされています。それに対し供給の見込みは約215万人。およそ38万人の介護職員が不足する見込みです。

解決するためには、省人化か国の補助を含めた賃金改善で人材を確保するしかないのではないでしょうか?そうなると、野口の主張する医療介護従事者が全体の4分の1になるが現実化したとしても 医療介護従事者の賃金は安い が成立しないことになります。

ちなみに野口氏は、「医療介護従事者が全体の4分の1になる」状況を避けるため省力化を提案しますが、サービス産業の多くは新しい技術を用いて省力化するのが難しいため、「移民を受け入れて労働需給を緩和することしかない」と主張します。なぜか、賃金改善の選択肢を排除しているのです。

日本の製造業は縮小しているのか?

また野口氏は、以下のように主張します。

労働力人口が減少して人手不足が深刻化するにもかかわらず、なぜ賃金の伸びがこのように低いのだろうか?その理由は、賃金の高い製造業が縮小し、賃金が低い医療・福祉業が増加しているからだ。だから、経済全体の賃金は伸びないのである。製造業が縮小したのは、中国を初めとする新興国の工業化の影響だ。日本だけでなく、世界のすべての先進国が同様の影響を受けた。

賃金が伸びないのは、「賃金の高い製造業が縮小し、賃金が低い医療・福祉業が増加しているからだ」と断定してしまっています。確かに以下のデータのように、製造業の就業者が減る一方で、医療・福祉業の就業者数は増えています。

主な産業別就業者・雇用者の推移
主な産業別就業者・雇用者の推移 出典:総務省統計局

しかし、低賃金の医療・福祉業の従事者が、経済全体の賃金を押し下げているという、「さすがに無茶でしょ」と素人でも思うような主張を、高名な経済学者が堂々と主張しているのですから驚きです。確かに医療・福祉業の就業者の伸びは顕著ですが、製造業を含む広範な産業で就業者数は増加傾向に転じているのです。

一方ぼくの主張、「賃金が上がらないのは非正規が約4割と高止まりしていること。また新規就業者の増加は若年層、女性、高齢者が主導しているため」の方がデータに基づいており、説得力があると自負しているのですが、どうでしょう?

さらに野口氏は、「日本の製造業は縮小している」とさらりと述べていますが、どのデータに基づいた発言なのでしょうか?法人企業統計によると、外需の好調を反映し製造業売上高は過去最高を記録しているといいます。

「賃金上昇は今後も見込み薄」との結論はぼくと同じですが、野口氏の論理展開はデータに基づかない、いい加減なものと言わざるを得ません。同氏の主張は、「低賃金の医療介護従事者が全体の4分の1になるから 実質賃金が伸びない、だから外国人労働者を受け入れる必要がある」との結論を導くための布石のように感じます。

医療介護従事者の人材不足は深刻で、何かしらの対処は必要なのは間違いありません。それを安易に、「外国人に任せればよい」と考えるのは正しいことなのでしょうか?そのような主張をする人たちは、日本人が嫌がる過酷な仕事を外国人にやらせることに、後ろめたさを感じないのでしょうか?その結論に至る前に、国内問題としてできることはまだまだあるはずです。

まとめ

  • 野口 悠紀雄氏は、賃金の低い医療介護従事者が全体の4分の1になるため実質賃金が伸びないと主張
  • 既に必要な医療介護従事者の確保が難しく、今後も低賃金を維持するのは難しい
  • 野口氏は賃金の高い日本の製造業が縮小していると主張する
  • 実際は、近年の日本の製造業の売り上げは外需主導で過去最高
  • 野口氏の論理展開はデータを無視し、「外国人労働者受け入れ止む無し」の結論が先行しているのでは?