正社員の賃金に改善の兆し。それでもリーマンショック前の水準まで遠い道のり

さすがに失業率が2.2%まで下がると、企業の賃上げの動きもみられるようになってきました。

ベア実施企業43.8% 賃上げ調査 離職防止…中小が大幅に上回る

東京商工リサーチは5日、平成30年度の賃上げ状況調査を発表した。今春闘で賃上げした企業は全体の82.2%で前年比0.4ポイント減とほぼ横ばいだったが、ベースアップ(ベア)を実施した企業は43.8%と9.3ポイント伸びた。人手不足を背景に、人材の流出を防ぐため賃上げに踏み切る中小企業が引き続き多い。

今回の報道内容で特徴的なのが、「ベースアップ(ベア)を実施した企業が43.8%と9.3ポイント伸びた」ことです。賃上げと聞けば賞与定期昇給をイメージしますが、ベアは基本給のことで、企業のベースとなる給与水準を上げていることになります。企業にとってベースアップは賞与のように業績によって調整ができず、今後も確実に人件費として捻出せねばならないため負担が大きくなります。それでも実施する企業が増えているのは、記事の通り人材流出を防ぐ必要にかられているのでしょう。

それでも実質賃金の大幅な伸びは期待ができない理由

賃上げの動きは、「アベノミクスの効果が出て良かったね」という話ではなく、1997年から下がり続けていた実質賃金がやっと下げ止まってきたのかなという程度のことです。まだ、リーマンショック前の水準にさえ戻っていないのです。

実質賃金推移 1990年~2018年3月 出典:NIPPONの数字

そして冒頭の報道の賃上げで恩恵を受けているのは、主に正社員です。日本の労働者のうち、正社員の割合は6割にまで下がりました。

日本の雇用者数の推移 出典:THE21ONLINE

4割程度に非正規雇用が固定化されているため、正社員を中心とする賃上げが実質賃金の伸びを抑制してしまっているのです。非正規も賃上げの動きがあるようですが、やはり雇用形態の特性上、正社員ほどの賃上げが望めないのが実情です。

それでもこのまま企業業績が好調を維持しGDPが年率2%程度の成長を続けていけば、さらに賃上げの傾向が続き、実質賃金もリーマンショック前の水準を目指して伸びる可能性もありますが、今後の中国や米国を中心とした外需が好調に推移するかは不透明ですし、2019年10月の消費増税も控えているためどうなるか分かりません。

焼け石に水だったぼくの賃上げ体験

ぼくはリーマンショック前、地元のある装置メーカーに勤めていました。1~2年で転職を繰り返していたぼくにとって、正社員としては3社目の会社でした。当時も製造業の景気はあまりよくなく、しかも中途採用だったこともあり給料はとても満足できるものではありませんでした。

しかし給与より、「海外営業」という職種においてスキルアップをしたかったぼくは、将来的には海外営業部に配属されることを条件に入社しました。1年目は製造部で装置の組み立てなどに従事し、2年目からは装置を客先へ設置したり修理したりするサービス員として働きました。

サービス員なので国内出張が頻繁にあり、経験を積むことで海外へも一人でいけるようになりました。英語と技術を身につけた社員は100人程度の企業の中で3人だったので、客観的に見ても相対価値は高く、それなりの賃上げは当然だと考えていましたが、会社はそう考えていなかったようです。恐らく全社員と同水準だったのでしょうが、年1000円程度の昇給にとどまっていました。

中途採用で元々低い給与で、しかもスキルアップに応じた昇給がなく、さらに3年経っても希望の配属先に行けない状態で続ける理由は見つかりませんでした。「辞める」と告げた時の経営陣の意外そうな顔は今でも覚えています。ぼくにとって、「続ける」という選択をする方が不可解なのですが、一般社員と経営者との認識の違いをまざまざと体感した経験でした。

経営者は、人を雇うことの重大さを十分認識しているのでしょうか?人が会社に勤める決断をするのは、とても重いことなのです。人生の大切な時間を、その会社の成長のために捧げるわけですから。ぼくは3年で巨大な装置を隅々まで理解し、海外へ一人で設置できるまでになりました。

社員が1年会社で仕事を経験することで、生産性はかなり高まります。「人材の流出を防ぐ」目的で賃上げを決断しているようでは、遅かれ早かれ社員から見放されるのではないでしょうか?近年の企業業績は、過去最高水準まで高まっています。それに見合った賃上げを怠ってきたのが日本の企業です。

労働者の企業に対する信頼性は、かなり下がってきているように感じます。安倍政権が進める「働き方改革」は、その動きを加速させると危惧しています。

まとめ

  • 人手不足が深刻化し、正社員を中心に賃上げの動きが加速している
  • それでも実質賃金は、1997年以降の下落傾向から下げ止まった程度
  • 実質賃金の伸びの鈍さは、約4割で高止まりしている非正規労働者が大きな要因
  • 今後実質賃金が伸びる可能性はあるが、外需や消費増税の影響で不透明
  • 企業業績の回復に応じた賃上げを怠ってきた企業に対する労働者の信頼性は低下している