財政健全化で貧しくなったギリシャ国民。リラの下落でも底堅いトルコ経済

2018年8月22日

メディアでは、「リラが下落し続けてやばいトルコ経済」、「財政健全化を成功して未来の明るいギリシャ」との対比が目立ちますが、実際の経済指標をみると実体はかなり印象の違うものになります。

国民の痛みで財政健全化したギリシャ

多数の緊縮財政策、ギリシャ回復の礎に=モスコビシ欧州委員

欧州連合(EU)欧州委員会のモスコビシ委員(経済・財務・税制担当)は20日、対ギリシャ金融支援の一環として行われた多数の財政緊縮策こそ、同国経済の持続的な回復の礎となったと指摘した。

まず認識しないといけないのは、ここでいう財政健全化の成功とは、プライマリーバランスの黒字化のことです。

source: tradingeconomics.com

確かに黒字化に成功していますが、政府債務残高は対GDPで約180%といまだ高止まりしています。

source: tradingeconomics.com

やっと赤字体質が改善され、政府債務残高の増加が止まった段階でしかありません。でも、赤字体質が改善されて良かったね、という単純な話でもありません。GDPがここまで落ち込んでしまったからです。これが緊縮財政による財政健全化の副作用です。
source: tradingeconomics.com

GDPが落ち込むわけですから、失業率も悪化します。

source: tradingeconomics.com

改善には向かっていますがまだ20%と高く、若年層の失業率は40%にもなります。財政健全化とは、要は国民へのお金の分配を減らし政府が持っていくことを意味しますので、成長無き財政健全化とは国民の資産が減ることになるのです。日本のようにゼロ成長で留まればまだましですが、マイナス成長になってしまうと国民の貧困化が進むことになります。EUやIMFの支援を受けるということは、国民に「痛み」を強いる結果になるのです。

高い経済成長率で財政も比較的健全なトルコ

トルコは堅調に経済成長を続けてきました。


source: tradingeconomics.com

グラフはドルベースなので減少しているように見えますが、以下のグラフのようにリラベースでは年7%程度の成長をしているのです。


source: tradingeconomics.com

リラ安が騒がれていますが、ドルに対してリラの下落傾向は以前から変わりません。(上昇でリラ安)

トルコリラ対ドルレート

なので、以下の記事のような「底なし」という表現はどうなのかなと思います。

トルコリラ「底なし」下落の恐怖、大統領が通貨防衛全否定

トルコリラ下落に歯止めがかかりそうにない。それは通貨防衛策が講じられる可能性が極めて低いからだ。トランプ米大統領が、トルコに対してアルミニウムと鉄鋼の関税率を2倍に引き上げると発表した10日、トルコリラは一時、前日比で3割弱値を下げ、1ドル=7リラを割り込んだ。

意外と言っては失礼ですが、トルコ政府の財務状況は比較的健全です。政府債務残高は対GDPで、28.3%程度です。

source: tradingeconomics.com

プライマリーバランスも、近年はGDP比マイナス2%未満で推移しています。


source: tradingeconomics.com

ギリシャと違いトルコは緊縮財政で財政健全化(欧州基準で財政赤字3%未満)を実現したわけではなく、年7%程度経済成長しているため税収も増えており、政府支出を増やしても大きな赤字にならないからです。本来財政健全化とは、バブル以前の日本がそうだったように経済成長することで実現するのです。

じゃあトルコは安心だねという話でもありません。政府の財政は健全でも、民間企業の対外債務は高水準にあります。記事にもあるように、リラの下落で資金繰りに窮する企業も出てきて、IMF(国際通貨基金)に支援を求めることも選択肢にありますが、エルドアン大統領は否定するといいます。

ギリシャのようにIMFに支援を求めると、必ず緊縮財政に走るのをエルドアン大統領は知っているのです。企業の不採算部門は外資に売り飛ばされ、無慈悲な経営判断でリストラなどコスト削減を強行し、無理やり黒字化することが目に見えているからです。それならトルコ政府が民間企業を支援する、という選択をする可能性が高いと思います。海外からの批判はあると思いますが、国民の幸せを優先する決断だと国民から支持を得られます。それは「トルコファースト」であり、トルコと対立している米国のトランプ大統領と同じ考えに基づいています。

まとめ

国際社会と協力し財政健全化に成功した優等生ギリシャ、一方で国際的に非難されようと自国の利益を最優先するトルコという構図が見えてきますが、どちらが正しい姿でしょう?グローバリズムを信奉する人たちはギリシャのやり方が正しいと言うでしょうが、「国民の幸せの追求」という国本来の目的を優先しているトルコが個人的には正しいと思います。最近、「世界から尊敬される日本」など悦に浸る報道を目にしますが、裏を返せば単に世界にとって日本が都合の良い存在になっていることを意味します。世界から非難されようと、つまり反グローバルになろうとも、自国の利益を追求することも必要ではないでしょうか。「グローバリズムを追求した結果、自国民が不幸になりました」、ではシャレになりませんから。

(※記事の執筆時にトルコが財政黒字と勘違いしていたため、内容を一部変更しています。2018/8/23)