成長できないのは「成熟社会」だから?人々を分かった気にさせるマジックワード

このブログもそうですが、世間の経済に関する見方は玉石混淆で、何が正しいのか見定めるが難しい時代です。

ぼくが述べている経済の見方も誰かからの借り物で、いろいろな意見を見たり聞いたりしながら、もっとも自然に頭に残るものを自分なりに組み立て、自分の言葉でアウトプットしているだけです。その過程で一番注意しているのが、語られる経済が何に基づいているかということです。客観的なデータに基づいている場合は信頼度も高まりますが、それが個人の経験則であったり「経済学」という枠組みであったり、何となく世間で共有されているイメージだったりすると、安易に信じない方が賢明だと思います。

例えば以下のような記事は要注意です。

景気がいいのは本当か? 私たちが豊かになれない本当の理由

政府は、経済はよくなっていると言う。確かに株価は上がっているものの、我々の生活実感はない。実際のところ、経済はどうなっているのか?

記事は、大阪大学社会経済研究所特任教授小野善康氏が、自著『消費低迷と日本経済』(朝日新書)でつづった内容を中心にシンポジウムで語った内容をまとめたものです。

日本は成熟社会だから経済成長しないというイメージ

小野氏は、「日本経済は1990年代を境に大きく変貌しているものの、経済政策の考え方はそれに追いついていない」、と主張します。1955~1973年の実質経済成長率が年平均10%を超えていた高度成長期は、貧しかった国民の所得が年々増えていたので、豊かな生活を送るため車や白物家電を競うように購入しており、消費意欲は旺盛でした。それが80年代にもなると誰もがさまざまな電化製品や車を持てるようになり、今とほとんど変わらない社会になっていきます。

そして90年代を境に劇的にその様相を変え、2010年代のいま、日本は既に「成熟社会」入っているといいます。60年代の頃に人々が感じていたほど強烈に「絶対にこれが欲しい」というモノは残っておらず、今自分が持っているものより高品質の製品が出てきても、それで生活が大きく変わるわけでもないから、「まあ、今のままでいいや」と思えてしいます。それが、90代をピークに家計の消費の伸びが低迷している要因だそうです。

以下のグラフは、家計消費支出の推移です。


source: tradingeconomics.com

長くなりましたが、以上が小野氏の主張です。一見すると「なるほどな」と思ってしまいますが、人々のマインドを証明することはできませんので、この見解が絶対に正しいと裏付けることは困難なのが実情です。言ってしまえば、単なる「90年代以降家計の消費が低迷している」事実に対する見解のひとつに過ぎず、イメージでしかないのです。

「失われた20年」は経済政策の失敗が主な要因

「90年代以降家計の消費が低迷している」要因としてぼくが考えるのは、90年台前半のバブル崩壊により大きな負債を抱えた民間が借金返済に奔走したため需要が大きく落ち込み、その影響はいまでも続いていることです。バブル時はブランド品や高級品の爆買い、国内・海外旅行など、消費意欲は旺盛でした。単にバブルが崩壊しため、マインドと関係なく物理的にそれが継続できなかったのです。

また、バブル崩壊で民間需要の落ち込みを財政出動で支えたため、その影響は90年代後半まで大きく現れませんでしたが、1997年に消費増税を実施し、本格的な緊縮財政が始まってから民間企業や銀行の破綻などで顕在化してきます。その以来現在まで、2014年の消費増税や緊縮財政が継続しているわけですから景気回復できず、所得も下がり続けているわけですから消費が回復できるわけありません。

90年代を境に大きく変わったという見方は同じですが、それは成熟社会になったからではなく、単にバブルが崩壊しその影響が続いているという見方だってできるのです。バブル崩壊、消費増税、緊縮財政を無視して「成熟社会」で片づけてしまうのは少々乱暴ではないでしょうか。どうしても成熟社会を押し通したければ、日本が20年ゼロ成長の間、他の先進国が最低でも1.5倍以上の成長をしている理由も説明する必要があります。日本だけが成熟社会になったとはとても思えません。

まとめ

小野氏の主張する「景気低迷は消費低迷が理由」は同意できますが、その理由付けに疑問を感じます。「成熟社会」はあらゆるものを説明でき、人々を理解した気にさせるリスキーなキーワードです。成熟社会になり消費が落ち込むことがまったくないとはいいませんが、日本経済をそれだけで語るのは危険です。

小野氏は成熟社会で経済を良くするには、「これまでにない創造的な商品や、新たな生活の楽しみ方を考えなければならない」と主張します。しかし消費低迷は、グローバル化、雇用の規制緩和による非正規労働者の増加、増税と緊縮財政、企業業績の上昇に対して鈍い賃金上昇など、色々な要因が重なった結果なのです。そこまで理解しないと、景気回復のための正しいソリューションを導き出すのは難しいでしょう。