労働分配率に関するミスリード記事。直近で最高だったのはリーマンショック後

世間では労働分配率に関する話題で盛り上がっています。残念ながらいつものように、親アベノミクスと反アベノミクスの立場の違いで都合の良い解釈がまかり通っているので、中立な立場から労働分配率にについて簡単な説明を試みたいと思います。

労働分配率が高ければいいというものではない

まず反アベノミクスの東京新聞の記事から見ていきます。

人件費分配率 下落続く 企業の内部留保 最高446兆円

財務省が三日発表した二〇一七年度の法人企業統計によると、企業の内部留保と呼ばれる「利益剰余金」は、金融・保険業を除く全産業で前年度比9・9%増の四百四十六兆四千八百四十四億円となり、過去最高となった。一方で企業が稼いだお金のうち、従業員の給与・ボーナス、福利厚生に充てられた割合を示す「労働分配率」は66・2%と前年度の67・5%から下落。企業の利益の伸びとは対照的に、賃上げが進んでいない実態をあらためて浮き彫りにした。

出典:東京新聞

記事にある通り、労働分配率は企業が稼いだお金のうち、従業員の給与・ボーナス、福利厚生に充てられた割合で、内容についても間違いはありません。しかし、グラフの2008~2009年の労働分配率が高かった理由の説明が足りません。以下は、上記グラフと同時期の完全失業率の推移です。

出典:NIPPONの数字

2008~2009年の労働分配率が高かった時期は、リーマンショックの影響で景気が最悪だっため失業率が3.9~5.5%ととても高かったのです。徐々に景気が回復し失業率が低くなるとともに、労働分配率も下がっていきます。これは当然の現象で、景気が悪くなると賃金の低い非正規から切られるため、全体の平均賃金が上昇し労働分配率も高まります。逆もまた然りで、景気が回復してくると賃金が低い非正規から雇用され、平均賃金の伸びが企業の利益回復のペースより鈍くなるためです。

じゃあ結論が間違っているのかといえばそうではなく、「企業の利益の伸びとは対照的に、賃上げが進んでいない実態をあらためて浮き彫りにした。」は正しい問題提起です。アベノミクスで賃上げが鈍いのは大きな問題です。しかしこのことはアベノミクスだけの問題ではなく、同じく外需主導による小泉政権下での長期景気回復時も同じ傾向であったし、世界的にも労働分配率は下落傾向にあります。グローバル化が進み、グローバル競争で勝ち抜くためには容易に賃上げができない構造になってきたのが大きな要因のひとつではないでしょうか。

労働分配率の上昇には内需主導による安定した景気回復が不可欠

親アベノミクスというわけでもないのでしょうが、より中立的で好感が持てるのが以下の記事です。

労働分配率、43年ぶり低水準 17年度66.2% 人件費抑制鮮明

財務省が発表した2017年度の法人企業統計では、企業が稼ぎを人件費に回す割合を示す「労働分配率」の下落が続いた。17年度は66.2%でバブル期にも及ばず、43年ぶりの低さ。蓄えを指す「内部留保」や業績が高水準でも、利益をため込む企業の姿勢に変化は見られない。政府の賃上げ要請も響かず、デフレ脱却の鍵を握る個人消費の活性化がおぼつかない構図を表している。

東京新聞に欠けたていた、「企業は通常、賃金体系の激変を避けるため、労働分配率は好景気の時に下がり、不況時ほど上がりやすい。」との一文があります。また東京新聞のいう「企業の利益の伸びとは対照的に、賃上げが進んでいない実態をあらためて浮き彫りにした。」は確かに問題なのですが、SankeiBizのいう「デフレ脱却の鍵を握る個人消費の活性化がおぼつかない」というさらに深い問題についても突っ込んでいます。

企業が賃上げに踏み切らないのは、個人消費が低迷しているのが大きな要因です。小泉政権でも安倍政権でも、好調な世界経済にけん引されてGDPが僅かなりとも伸びてきました。しかし一方で、低迷する内需を拡大する政策が欠けていたため、企業は賃上げに二の足を踏み、個人も消費を増やそうというマインドになるには至っていません。世界経済はいつどき不況になるかわかりませんし、消費増税や社会保険の負担が増える中、個人消費が増える材料に欠けてます。企業は賃上げしづらく、個人も消費を増やしづらい経済環境にあるのが本当の問題なのです。そんなとき消費を増やせるのは政府だけなのですが、ありもしない「財政破綻危機」が足かせになり、八方ふさがりになっているのが日本の状況なのです。

メディアが労働分配率について報じる際は、ぜひ内需拡大の必要性にまで言及して欲しいのですが、グローバル化が労働分配率低下の一因とするSankeiBizでも、そこまでは言及していません。恐らく、グローバル化の流れは止められず、また止めるべきではないとの考えがあり、財政出動による内需拡大については決して賛成できないのでしょう。であるのなら、安定した内需主導による景気回復以外に、労働分配率を高める方策があれば教えて欲しいものです。

と書いたところで、SankeiBizの記事の最後に「富裕層への課税強化などで所得再分配機能を高める必要があると主張した。」との一文がありました。これができたとしたら、個人消費拡大のために非常に有効だと思います。富裕層は多少の税金があがろうとも、節約をする必要がないほどお金を持っているはずですから。しかし日本では貧国層への課税強化になる消費増税をしようとしており、国民からも一定の支持があるのですからわけがわかりません。

まとめ

自民党総裁選において低迷する労働分配率を非難する石破茂氏ですが、有効な解決策を提示しなければ意味がありません。消費増税に賛成している時点で、石破氏が安倍政権より効果的な経済政策を実行できるとはとても思えません。

国民にとって不幸なのが、日本の行く末に大きな禍根を残すだろう消費増税を止める選択肢を持たないことです。野党から消費増税に反対する声は共産党以外からは聞こえてきませんし、自民党内からもあるにはあるのですが、流れを変えるほどの大勢に至っていません。メディアやインターネットでもでも労働分配率の低さを問題としていますが、「じゃあ消費増税の凍結と財政出動による内需拡大が必要だね」という有効なソリューションまで議論が及ばない残念な状況にあるのです。