大企業が導入する省人化システム。人手不足が解消しても期待できない賃金上昇

大企業を中心に、省人化システムの導入が加速しています。

「ファストリ」9割省人化の物流倉庫 8時間の作業が15分

9日、報道陣に初めて公開された、ユニクロを展開する「ファーストリテイリング」の最新の物流倉庫。コンベヤーの上を次々とコンテナが行き交っているが、よく見ると、報道陣以外、人の姿はほとんど見られない。

出典:ダイフク

省人化システムを導入できる大手と中小の格差拡大が加速する

小売業の倉庫業務は単純作業が主ですが、モノの移動頻度が高いため人手のかかる仕事です。それだけに、自動化することで確実に人件費削減の効果が期待できます。とはいえ自動化システムの導入コストは高く、物流量の少ない中小企業では割に合わないためフォークリフト程度の導入に留まり、いまだに人に頼っているのが現状です。

現状では、完全自動化に近いシステムを導入できるのは大手に限られています。ファーストリテイリングが導入したのは、物流機器大手のダイフクの最先端自動倉庫システムです。今後、成長が続くとみられるネット通販事業の拡大を見据えたもので、その拠点となる東京・有明の倉庫は「超省人化のアパレル倉庫」と呼ばれています。商品の積み降ろしから倉庫内での運搬、商品の梱包、配送するコンテナの片づけまで、9つある工程のほぼすべてを、AIやロボットが担います。作業の自動化により、従来より人員をおよそ9割減らすことができ、受注から出荷まで8時間かかっていた作業が15分に短縮できるといいます。

生産年齢人口の減少で人手不足は深刻化することが確実なため、大手企業を中心に省人化システムの導入が進んでいます。一方、中小企業でも単純だけど手間のかかる一部の業務を効率化するといった業務見直しは日頃から進めているはずでしょうが、大手ほど思い切った横断的な業務改革が難しいのが現状ではないでしょうか。今後は少ない人員で利益を維持、もしくは向上できる大手と、設備投資による人員削減が難しい中小企業との格差が益々広がることが予測されます。

人手不足は解消に向かうが期待できない賃金上昇

しばらくは人手不足の状態が続くかもしれませんが、大手から徐々に省人化が進み、人員不足が解消されていく可能性もあります。いまは高い求人倍率と低い失業率で「売り手市場」といわれていますが、今後は逆の動きになることも考えられるのです。

今後も生産年齢人口が減少するのは確実なため、政府はどうやって働き手を確保するかをテーマに政策を進めています。女性や高齢者、外国人が働きやすい環境を整えることで就業者数を増やし、昨今の人手不足に対処してきました。これは一見正しい政策のようですが、企業にとっては安い労働力を確保しやすくなるため、特に中小企業が業務改善による生産性向上を留まらせる結果になっています。また、労働者全体の賃金引き上げの足かせにもなっています。

人手不足になれば、企業は人員を確保するため待遇を良くする必要があります。しかし、賃上げ圧力が弱いのは、実は数字が示すほど人手不足の深刻度が高くないのかもしれません。既に業務の効率化はかなり進んでおり、多少の人手不足は社内で吸収でき、待遇を良くしてまで人手を確保しようとしていないのではないでしょうか。

外需とともに内需主導が伴う高い経済成長が今後期待できるのであれば、企業も賃上げによる人材確保に動きやすいのですが、消費増税を控え緊縮財政が続く間はそれも期待できません。そうこうしている間に小売業の無人レジ化や製造業のさらなる省人化が進み、生産年齢人口にもかかわらず人余りの時代が来ることも考えられます。そうなれば、賃金上昇どころか失業者で溢れる時代の到来の可能性まで考える必要が出てくるでしょう。

まとめ

政府は今、人口減少の歯止めや労働力確保を最大の課題と捉えて政策を進めていますが、実はまったく見当違いのことをしている可能性もあります。10年後には企業の省人化がかなり進み、高い失業率が問題になっているかもしれません。そうなれば、生産年齢の減少はむしろ幸運だともいえでしょう。でもそうなった場合、高まる生産力の一方で需要が大きく減ることになるため、環境保全や社会システムの維持など公的な仕事も増やすなど、失業者対策や経済成長を維持するための経済構造の変革が求められることになります。ベーシックインカムの導入も現実味のある選択肢の一つとなり、国民全体でこれまでの常識に捉われない新たなマインドセットが必要になるでしょう。