現金が引き起こす社会問題。それでも通貨の役割が終わろうとしている訳ではない

NHKの『マネー・ワールド~資本主義の未来~ 第1集  お金が消える!?』を観ました。爆笑問題が司会で、内容もとても興味深いものでした。ただ、「お金が世の中を悪くしている」というような印象を与える一面もあり、観る側も勘違いしないよう予備知識があったほうが良いでしょう。

お金が引き起こす社会問題

番組では、世界経済が変わりつつある現状を的確にまとめています。例えば世界の商取引において、現金の使用量が劇的に減っています。『お金が消える!?』という印象的なタイトルは、実際には商取引がクレジットカードやスマホなど、現金からデジタル決済に切り替わりつつある現実を表現したものです。現金通貨から預金通貨にシフトしているに過ぎず、お金が消えつつある訳ではないのですが、それが現金通貨か預金通貨なのかが不鮮明なまま「お金」が引き起こす社会問題について紹介しているところは問題ありと感じました。

お金が引き起こす問題として最たるものとして紹介しているのが、金融緩和でお金を刷りまくって市場に供給しているのに、お金の使用量が増えていないことです。実際にはマネタリーベースを増やしているだけでお金を刷っている訳ではないのですが、番組ではその辺りの説明が不足しています。以下の一場面「日本人のタンス預金47兆円 日本企業の内部留保446兆円」のように、現金通貨と預金通貨の区別もついていません。ちなみに日本の家計の現預金総額は900兆円以上あり、家計も企業も「使わない」のが問題であることは間違いありませんが。

また、原油価格の下落や金融制裁などの要因もありますが、お金を刷りまくることでお金の信用が下がりハイパーインフレになったベネズエラや、その匿名性のため犯罪組織に現金が流れていることもお金(現金)の問題として同列に扱っています。確かに世界経済は劇的に変わりつつありお金が与える悪影響もありますが、リーマンショック以降デフレ気味の先進国のお金と、国の信用自体が低いため常にインフレ率が高い新興国のお金ではまったく事情が異なりますので、一概にお金が社会問題を起こしているとも言えません。

通貨の役割が終わろうとしている訳ではない

番組では、「これだけ社会問題を引き起こしているお金なので、お金の役割が終わろうとしてる」という方向に持っていきたい意図が透けて見えます。例えばスウェーデンでは、国を挙げて現金の使用量を減らし、スマホ決済などのデジタル決済に切り替えようとしています。スマホ決済より処理の早い、人体に埋め込むICチップまで登場しているほどです。

また、ヨルダンでは目や顔、虹彩などの認証システムを利用したデジタル決済の実用化、中国ではスマホ決済の普及率が98%になるなど、世界レベルでは現金の役割が終わろうとしています。現金が消えるのは単に便利だからだけでなく、資本主義の転換だといわれています。

お金自体に価値があると錯覚する金属主義の名残りからか、デジタル決済にすることで現金を使うときに感じるハードルを下げるメリットがあり、消費を促進するといいます。確かに日本の個人消費が伸びないのも、他国と比較し異様に高い現金使用率が影響しているかもしれません。

しかし再度指摘しますが、現金通貨の役割が終わろうとしている一方で、預金通貨の役割が高まっているに過ぎません。これまでは信頼性と利便性の面で優れていたのが現金でしたが、テクノロジーの進化により、より信頼性と利便性の高い決済方法が登場したためそちらに流れているだけなのです。

また、国家の制約を受けない仮想通貨の登場も、お金のあり方を変えるとみられていましたが結局は投機の対象でしかなく、価値も各国の通貨と交換できることで裏付けられています。トークンや時間通貨など、通貨と同等の価値があるとみなされるものは多様化していますが、国が価値を保証しない限りリスクの高さから資本主義を根本的に変えるほどの影響力は持てないのではないでしょうか。

まとめ

「お金とは何か」を考える風潮が高まっていることは大歓迎です。これだけ身近なモノなのに、お金に関してはほとんどの人が正確に理解していません。特に日本では「お金は大切」と教えられるため、「大切なものだからよく考えて使おう」と節約志向になるのは当然の帰結なのでしょう。惨めな思いをしない程度の節約はいいのですが、節約のために消費を我慢してしまうのは本末転倒で資本主義の否定です。

国が価値を保証するお金は、国民を豊かにするのが最優先のツール(手段)に過ぎないことが理解できれば、この経済状況で増税することの異常さがわかるはずです。ベネズエラのように過度にお金の信用が下がらない限り、国はいくらでもお金を発行できるのですから。そう考えると、世界経済にとって問題なのはお金ではなく、お金に対する人々の認識だとわかります。