世界の借金が164兆ドルに。是正すべきはグローバリズムと先進国の財政健全化

2018年10月14日放送の、NHKスペシャル「マネー・ワールド~資本主義の未来~第3集▽借金に潰される!?」を観ました。いい番組なのですが、「借金」の捉え方に物足りなさも正直感じました。「借金は常に悪ではない」ことに言及したのは評価できますが。

世界の借金の総額は2京円目前ですけど何か?

番組は、世界の借金の総額は164兆ドル(約1京8500兆円)に達したと紹介しています。どうやらソースは以下の記事のようです。

世界の債務負担、過去最大の164兆ドル-IMFの「財政モニター」

世界の債務負担が過去最大の164兆ドルに膨んだ。国際通貨基金(IMF)が18日発表した。各国はリセッション(景気後退)や金融環境引き締めに際し、一段と難しい対応を迫られる可能性がある。

世界の金融機関から個人、企業、政府に貸し出された借金総額は記録的な量になり、世界を膨大な借金が覆い資本主義のシステムに大きな危機が差し迫っていると危機を煽ります。日本メディアの悪い癖で、あいまいなまま「何となくヤバイ」という印象を視聴者に植え付けるいつものやり方です。そこからは「何と比較して莫大か?」、「どうして資本主義の危機なのか?」が見えてきません。

どうやら「世界の借金総額が過去最高を更新し、世界のGDPの225%まで膨らんでいるため返済できない(だろう)」ことが資本主義の危機と主張しており、何となく理解した気になるかもしれません。しかしその「何となく」が曲者で、その何となくの理解を多くの国民が共有することで、国を誤った方向に導くこともあるというかそうなっているので、本来であればNHKにはそんな情報を是正して欲しいのですが、残念ながらそうなっていません。

この番組に期待したのは、「誰かの借金は誰かの資産」というお金の原則がある限り、世界の借金が膨らもうとも同時に資産が膨らんでいることについての説明でした。しかし、そんな事実を伝えては番組が成立しないからでしょうか、世界の借金総額を世界のGDPと比べるという、ほとんど意味のないことをしていまいます。世界の借金を説明するのに家計の例えは禁物ですが、あえてやってみると、NHKがやっているのは「年収760万円の家計の借金総額が1640万円あり、年々借金が増えているから問題だ」という説明です。

実はその裏でこの家計の資産も増えていることには触れないのですから、悪意さえ感じてしまいます。そもそも、フロー(GDP)とストック(借金総額)の比較なんて意味がないのです。

本当の問題はグローバリズムと先進国の緊縮策

先述のようにGDPと借金総額を比較しても意味がないのですが、番組ではこの比較図を根拠にした、「既に資本主義は破綻している」という前提に基づいて話が進められているので、内容自体には価値がないどころか、世論をミスリードする悪害になってしまっています。

借金をしまくって成長してきたライザップの社長瀬戸健氏でさえ、「想像を超えています。これでは返せない」とNHKと財務省が喜びそうなコメントをします。確かにライザップは借金をしてきましたが、成長という結果にコミットしてきたため、借金が膨らもうともそれ以上のペースで成長しているので問題になっていません。というより、正しい資本主義の姿をみせてくれています。

社長のコメントに対しても、「企業と違い国はお金を刷って借金を返せるし、借り換えもできるから問題ない」の一言で否定できるのですが、やはり一般に「何となく」共有されている「借金は働いて返さなければならない」、「今後の成長は期待できないからこれ以上借金は増やすべきでない」との認識により、「資本主義の行き詰まり」という結論に導かれてしまいます。

確かに「資本主義の行き詰まり」の結論は正しいのですが、そこに導くまでの論拠が間違っています。世界の借金の増加ペースが速くなったのは、1985年以降に本格化したグローバリズムの影響は見逃せません。そして同時にその頃はインフレ率が高まり、戦後の(似非)ケインズ政策の限界と判断され、金融に重きを置く政策が進められるようになりました。インフレを伴わない不況対策として実施された金融緩和、そしてお金の移動が自由になるグローバリズムにより世界中に借金がばらまかれるようになります。

GDPの増加より借金総額の増加ペースの方が早いのは、借金が増えても昔みたいに実体経済が成長するような投資に向かっていないためです。先進国も、金融政策により低インフレ率と成長を両立できるようになったため、積極的な財政政策を控え財政健全化を優先する緊縮になります。しかし金融偏重による経済成長は貧富の差を拡大し、新興国を中心に金融不安を誘発させてきました。また先進国でも、低インフレと低成長が顕在化しているため、「資本主義の危機」的な状態になっています。でもその危機は世界の借金総額が問題ではなく、金融政策第一主義とグローバリズムによってもたらされたものだったのです。

まとめ

ここで世界的に借金を返済していこうという動きになると、世界恐慌入りは免れないでしょう。いま必要なのは、過度なインフレにならない程度に先進国を中心に借金を増やし、それぞれ内需を拡大する投資による世界の実体経済の成長に注力することです。また、経済成長を妨げる過剰なグローバル化にも歯止めをかける必要もあります。まさに見習うべきは、今米国が進めようとしている減税や巨額のインフラ投資、自国優先の経済政策ではないでしょうか。