大型連結トラック解禁による生産性向上。良い規制緩和と悪い規制緩和

1990年代からあらゆる「規制緩和」が善との風潮が広がりましたが、規制緩和が決して国民にとってメリットがあるわけではないことが証明されつつあります。体表的なのが雇用の規制緩和で、企業は低賃金の派遣社員や外国人労働者を雇いやすくなりました。雇用の流動性を高めることで恩恵を受けるのは一部の特別なスキルを持ったプロフェッショナル、そして人件費を削減できる企業で、労働者全体でみれば賃金の下落傾向に突入するきっかけになりました。

また、タクシーやトラック業界の規制緩和も、利用者がより低価格で高品質のサービスを受けられるようになるとの触れ込みでしたが、それは労働者の犠牲の上で成り立つものでしかありませんでした。

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トラック運送業の規制緩和がもたらしたもの

日本は米国より遅れること10年、90年に施行された「物流2法」からトラック運送業の規制緩和が始まりました。それ以後、運賃は許認可制から届け出制になり、最低保有台数の緩和や営業区域の廃止などの緩和が進められます。新規参入が急増し運賃相場が下落したのは目論み通りですが、当初4万社程度だった事業者数は15年で1.5倍の6万社を超え、当時は減少しつつある物量を奪い合う過当競争が激化しました。一度下げた運賃を上げるのは容易ではありません、インターネット通販の拡大で物流量は増えていますが、運送業者は顧客を失うのを恐れるため市場に見合った運賃にさえ戻せず、そのしわ寄せは低賃金の長時間労働を強いられるドライバーが被ることになります。

当時は規制で守られていた物流業は既得権益と糾弾され、自由競争が産業の効率化を促し顧客の利便性を高めるという、規制緩和政策の基本的な考え方に誰も反対できるような風潮ではありませんでした。確かに運賃が値下がったのですが、それは効率化の成果ではなく、実際にはコストの約6割を占める人件費の削減によるものだったのです。

体力のある大手運送会社は社員の給与を削減する代わりに、実運送業務を下請けに再委託することで運賃相場の下落に対応できます。大手は自社の社員にやらせていた仕事を、中小零細に委託するだけでコストを下げられ、また面倒なドライバーの労務管理や現場作業のコンプライアンスの問題からも解放される大きなメリットを授受することができました。

トラック運輸産業を担う各企業の経営基盤は脆弱で、99%が中小零細企業で構成されています。新規参入してきた企業の中には、安全義務違反や労働基準法違反、さらには社会保険の未加入といったずさんな経営をするものも多く、人手不足や燃料費の高騰といった状況でも運賃に転嫁できないことが、物流企業に更なる追い討ちをかけています。行過ぎた規制緩和は経済的規制の緩和にとどまらず、守らなくてはならない社会的規制までも緩和するという錯覚に陥り、無秩序な業界になってしまったと指摘されています。

設備投資・インフラ投資による生産性を促す良い規制緩和

雇用の規制緩和や、業界への新規参入を促す規制緩和は、安く人を雇いやすくなる企業や、仕事を下請けに委託できる大手企業にとって大きなメリットですが、中小企業や労働者にはデメリットの方が大きくなります。確かにそのことで大企業を中心に業績が上向きますが、それが賃金に反映されなければ意味がありません。

企業が儲かれば賃金が上がると思われていましたが、企業は将来の経済成長が確実に見込めない間は内部留保を増やすだけで、設備投資や賃金アップで還元することに二の足を踏んでいます。賃金が上がらないので家計は消費を抑え、そのことが将来の景気好転を不透明にするという悪循環に陥っているのです。

では、規制緩和はすべてが悪となるかといえばそうでもなく、以下のような規制緩和は歓迎すべきだと思います。

荷台2台分「大型連結トラック」新東名で解禁へ

国土交通省は、ドライバー不足の解消に向け、大型トラックの荷台部分を2台つなげる「連結トラック」の走行を本格的に解禁する方針を固めた。大きなカーブが少ない新東名高速道路を利用する経路に限り、大型トラック(1台約12メートル)2台分に相当する25メートルまで認める。来年1月にも全長に関する制限を緩和する。

これまでの規制緩和は、競争を促すことで企業のコスト削減を実現することを念頭にしていましたが、結果的に賃金が下がりデフレ圧力を高めるものでした。しかし「連結トラック」に関しては、企業に新たな設備投資と、ドライバーの教育の実践を要求することになります。ゆくゆくは「無人隊列走行」を見越した規制緩和になり、そのためのインフラ投資にも期待できます。これまでの安い労働力を増やす規制緩和とは違い、高度なドライバーを育て設備投資による経済効果、技術革新につながる歓迎すべき規制緩和だと思います。

まとめ

人手不足と設備投資による生産性向上に期待したいのですが、安倍政権は70歳継続雇用や外国人労働者の受け入れ拡大という筋悪の規制緩和も積極的に進めようとしているので意味が分かりません。恐らく経団連からの強い要望なのでしょうが、これらの規制緩和が人手不足による自然な賃金上昇を抑えることになります。金融緩和と緊縮財政、産業界に賃金アップを求めながら安い労働力を増やす規制緩和をする。あらゆる支持団体を忖度しているため、ブレーキとアクセルを同時に踏むちぐはぐな政策が進められています。国民が不都合を強いられるもどかしい状況はしばらく続きそうです。