グローバル競争に敗れ衰退した林業と山崩れの影響とは?

一昨日は、新年の無病息災を祈る行事「とんど」が行われ、ヤマメや牛肉のバーベキュー、お酒をおいしくいただきました。めちゃめちゃうまいヤマメは地元のおじさんが趣味で数百匹も養殖しており、とんどのときには部落のみんなに振る舞ってくれます。

山の保有者は豪雨被害に戦々恐々としている

地元の人たちが集まると、必ず話にあがるのが2018年7月の豪雨災害についてです。集落と県道をつなぐメイン道路はいまだ寸断されたままで、地元の山々から溢れ出た水で崩落した箇所がいくつも手付かずになっています。山の保有者は、山の麓への畑や田んぼ、家屋に被害が出たときの補修義務は誰が担うのかなどが心配事として頭から離れず、今年も被害が出るのではないかと戦々恐々としています。

国や自治体は災害時の避難に力を入れており、確かにそれも大事なのですが、被害が大きくならないような根本的な治水対策をして欲しいと思うのが正直なところです。幸いにもこの部落では、通学路にある山を削って斜面が剥き出しになり、 以前から危険だと指摘されていた箇所ののり面工事が豪雨の前に終わっていました。それでも話が出てから実際に工事が着工するまで数年を要し、単年度予算が限られているため完成するまでかなりの期間を要しました。同様の間に合わなかった工事予定箇所は多くあり、そのため被害が拡大したケースは結構あるのではないでしょうか。大きな被害が出た岡山県の真備町も、河川の改修工事がまさに行われようとしていたといいます。

人工林の整備不足が山崩れの原因か?

豪雨被害で恐ろしいのが、ここ広島県で多発した山崩れや土砂による家屋の倒壊です。スギやヒノキなどの針葉樹を植林した人口林の手入れが行き届かないため、地盤が貧弱になり山崩れが起きやすくなっているというイメージがありますが本当でしょうか。先日、久しぶりに地元の山を散策していると、以下の画像のように割と大きな山崩れを起こしており、山道が寸断されていました。よく見ると、ヒョロヒョロとした細く真っすぐな木が多いことが分かります。

このような幹が太らない針葉樹林は線香林と呼ばれ、写真でも分かるように根を張る力がなく、しかも木はヒョロヒョロなので、ちょっとした風雪害で折れてしまい、大雨が降ると根こそぎ流れてしまいます。線香林の山は水を蓄える力を失くし、大水や山崩れといった災害を引き起こすと言われ、まさに写真がそのことを物語っています。

そもそも針葉樹の人工林は、育ちが早く木材として利用するために戦後から国策として進められ、今では日本の森林の約4割が人工林を占めます。しかし海外からの安い木材が輸入されるようになると、国内の林業は採算が合わなくなり廃れていきます。林業がビジネスとして成立しているときは間伐などの手入れも行き届き、健全な木も土壌も育ちますが、真っすぐに育てるため密集して植林した針葉樹を間引かないで放っておくと、日光が地面まで届かず幹が太く育たないため線香林になってしまいます。

ここでもグローバリズムによる国内産業の衰退と、国策で進めた植林にもかかわらず、(恐らく対策予算を十分に手当てしなかったため)林業が廃れていくままにしてきた国という構図が透けて見えます。しかし、予算を確保し人工林の手入れをすれば山崩れなどの災害が防げるのかといえば、そう単純な問題でもないようです。

人工林でも天然林でも山崩れは起きる

ネットで調べると、針葉樹の人工林の手入れ不足が山崩れなどの災害を引き起こすという、前述したのと同じような説が多く流布されています。過去の山崩れの画像を見ても、それを裏付けるものが多くあります。以下は、2018年4月に発生した大分県中津市耶馬渓町の山崩れ現場の記事ですが、山崩れ箇所の周りに細長い針葉樹が密生しているのが見えます。

https://www.sankei.com/photo/daily/news/180416/dly1804160017-n1.html

一方で2018年7月の広島県豪雨災害の山崩れ現場写真には、天然林と思われるものも多くあり、天然林だから安心だとは言えないことが分かります。ぼくの住む集落の周りの山は、ほとんどが天然林です。7月の豪雨で大規模な山崩れは起きませんでしたが、雨が4日降り続いた最終日は、かなりの水が山から流れ出ていることが確認されています。土壌が豊かで保水力が高い天然林でも、限界にきていた可能性があることが伺われます。

それでも何かしらの対策は必要

以上のことは、森林ジャーナリストと称する田中淳夫氏が指摘しています。

水害と人工林批判を結びつけたがる愚

(前略)テレビを見ていて看過できない発言があった。どこぞの記者が、「この辺の山はスギやヒノキばかりなのです。そうじゃないと商売にならないので植えたのですが、スギやヒノキは根が浅くて水害に弱いのです。だから土砂災害を引き起こして……」と連呼していた。どうも話し方からすると、自分の意見というより聞きかじりらしく、地元の人か言ったというニュアンスだが、あまりに不用意な発言である。まずスギやヒノキには保水力がないというのは、誤解である。林齢や間伐などの手入れ状況抜きに針葉樹を貶める発言はムカつく。

田中氏は、 森林土壌部分が崩れ流れる「表層崩壊」と違って 「深層崩壊」は、基盤岩層から崩れるため表面の森林が関係する可能性は極めて低く、極端な大雨が降った場合、いかなる森林であっても崩れるものだ、と指摘します。また別の記事、「大水害の発生と、森林は関係あるのか」では同じ主張をベースに、「さらに森林整備が災害を防ぐかどうかも、かなり疑問である」「 いかなるダムを造ろうと川岸をコンクリートで固めようと、ほんのわずか災害発生を弱めるぐらいにしかならない 」とまで踏み込んでいます。

広島県の真砂土の地盤、地震で山崩れが多発した北海道の火山灰が堆積してできた地盤など、田中氏の指摘するように山崩れの起こりやすさは地盤の脆さの影響が大きいことは理解できますし、山崩れが起きた際にいつも人工林だけが悪者にされる風潮は真実を見えなくするため控えなければならないと思います。かといって、これまでの森林整備や治水事業まで否定するような発言は到底同意できません。田中氏は最後に言います。「むしろ歴史的に災害は不可避だと認識すべきだ。そのうえで、被害をいかに小さくするには何ができるか、を模索したい」と。

被害をいかに小さくするために行われてきたのが、森林整備や治水事業だったはずです。個人的には、それがありもしない財政問題で十分に行われていないのが問題だと思いますが、田中氏は他に何ができると考えているのでしょうか。記事からは、具体的な対案がみえてきません。まさか、「災害は不可避で防災の効果は薄いから諦めて逃げるべき」とでも言うのでしょうか?

まとめ

インターネットで見る限りでは、各自治体で水害対策の一環で森林整備が行われています。ここ広島県でも、一時期「森づくり県民税」を徴収し、森林整備の財源にしていました。それがどれほど水害対策に効果を発揮してるのか分かりませんが、国の事業でどうしてもネックとなるのが財源と人材不足のように感じます。

個人的には財源は国債の発行でいくらでも確保できると信じていますが、世間一般では財源に限りがあると信じられているため、仕方なくお金のかかる災害対策を諦めているように感じます。人手不足も、要は労力に見合うお金が出せないから人が集まらないという側面が大きいと思います。もし、本当に財源不足を理由に防災対策が疎かになり犠牲者が増えてるとしたら、いわゆる「国の借金」を広めている人たちの罪は決して軽くはないでしょう。