世界でプレゼンスが低下する日本が自ら北方領土問題を解決できる手段はない

安倍首相とロシアのプーチン大統領がモスクワで会談し、平和条約締結に向けた交渉に挑みました。会談後は記者の質問を受けない共同記者会見が行われ、北方領土の共同開発や経済協力の迅速な進展、平和交渉協議の加速などを確認しましたが、事前に国内で期待された歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島の返還についてはまったく触れられませんでした。これを受けメディアでは、北方領土問題の進展はなかったとの見方が大勢を占めています。

首相、北方領土問題の進展示せず 事実上2島に絞り交渉

安倍晋三首相は22日、ロシアのプーチン大統領とモスクワで会談した。1956年の日ソ共同宣言で日本に引き渡すと明記した歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島の事実上2島に絞って返還交渉を進める方針で臨んだが、会談後の両首脳による共同記者発表では交渉の具体的な進展は示せなかった。

出典:外務省HP

そもそもロシアは北方領土の一島でも返還する気はあるのか?

東郷和彦氏、鈴木宗男氏など、北方領土に詳しい人たちは、あたかも会談前には「二島返還で話が進む」かのように論じていました。しかし実際には会見ではまったく返還については触れられず、期待外れ感があるのは否めません。発表内容の裏では進展があった可能性がないわけではありませんが、それを発表しなかった事実は、ロシア主導で会談が進められていることの裏付けではないでしょうか。

経済評論家の上念司氏も、21日のラジオ番組『おはよう寺ちゃん活動中』で次のような趣旨のことを述べていました。「これまでソ連崩壊やプーチン大統領の一期目に、二島先行返還の大きなチャンスがあったが、日本政府が四島一括返還にこだわったため台無しにしてきた経緯がある。あのとき返還に成功していたら、今頃、国後、択捉の返還交渉ができていたはずだ。基本的に領土問題は戦争でしか解決できない。今回も四島一括にこだわっていたら、この先ずっと二島の返還さえも叶えられないだろう」。

同様の主張をほかの専門家からも聞きますが、果たして二島の返還というオプションは本当に現実的なのでしょうか?そもそも今回の会談を巡る報道でも、ロシア側から二島返還する準備があるという話は一切出てきていません。それどころか、2019年1月14日の日露外相会談で、ラブロフ外相が「まず日本は4島がロシア領と認めよ」「北方領土という用語を使用するな」などと強い要求をしています。

日ロ両政府は1956年に日本と当時のソ連が結んだ日ソ共同宣言を基礎として交渉を進めており、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとしています。とはいえ相手は日ソ不可侵条約を一方的に破ったロシアです。平和条約締結という実を取り、二島返還を永遠と先延ばしする可能性の方が高いように思います。

圧倒的な軍事力、経済力に裏付けされた実力がなければ領土や人質は返ってこない

上念氏の言うように、領土問題は武力でしか解決できないのかもしれません。それは2014年にロシアがクリミア半島を侵攻したことで、自ら証明しています。世界のGDPの15%を稼いでいた1990年代前半の日本でも、あと一歩のところで北方領土返還に頓挫してしまいました。それ以後は経済が低迷し、世界のGDPの5%まで経済的優位性が後退し、かつ憲法で戦争を放棄したままの現在の日本が、交渉だけで二島の返還に成功するなんて非現実すぎます。

安倍首相にしても、平和条約を結んだからと言って本当に二島が返ってくるとは思っておらず、それよりロシアと経済協力を強化することにメリットがあると判断し、返還交渉を継続的に続けていくつもりなのかもしれません。日本を介しロシアを資本主義陣営に引き寄せることが、日本のGDPを抜き米国に次ぐ経済大国になった中国への牽制にもなり、日本だけでなく西側諸国全体の利益につながります。

その見方が正しければ安倍首相は今後、ロシアが容認できるであろう主権問題に触れない平和条約の締結に動く可能性が高くなります。主権問題を一時棚上げすることが、すでに四島を実効支配しているロシアにとっては好都合でしかなく、かつ西側諸国との経済協力により経済発展も期待できます。

そうなると安倍首相在任中の解決は不可能で、退陣後も国内向けには日ソ共同宣言に基づき条約締結後の二島引き渡しが可能だと主張し続けていくしかありません。しかし実際には永遠と二島が返ってくることはなく、ずるずるとロシアと交渉を続けていくというシナリオが現実的になってきます。

まとめ

これまでの北方領土問題の経緯を見ていくと、上念氏や鈴木宗男氏の「二島先行返還、あわよくばプラスα」がいかに楽観的な見方かが分かります。それでも両国が平和条約締結を進めたいのは、両国だけでなく先進国にとって都合が良いからだと推測できます。それはそれで日本の国益になると思いますが、北方領土問題の解決はほぼ見込めないことになります。それもこれも、日本経済の世界的なプレゼンスが低下し、いつまでも憲法で武力の保持や戦争を放棄するという、独立国家の体をなしていないところに根本的な問題があります。

北朝鮮の拉致、ロシアと韓国の領土不法占拠など、戦後日本はひどい目に遭いながら、話し合い以外に自ら解決する手段を持っていなかったのです。しかも現在でも、中国は尖閣諸島や沖縄、韓国は対馬に対し領土的野心を隠そうとしていません。占領されてしまった時点で日本の負けです。これ以上、国土や国民が奪われないように何ができるかを真剣に考えなければいけないときなのです。