オートメーションは労働者にメリットがあるのか?短期的な失業が課題

ジョン・メイナード・ケインズの評伝三部作で知られる、イギリスの貴族院議員、経済学者、歴史学者、ウォーリック大学名誉教授のロバート・スキデルスキー氏が、オートメーションが労働に及ぼす影響を考察しています。興味あるテーマなので、稚拙ながらすべて訳してみました。

オートメーション化した未来の経済の帰結

これまでの経済理論は、テクノロジーの進歩が労働市場にどのように変えるのかについて明確な答えを示してきませんでした。また政策立案者は、長期的にメリットのあるオートメーションが、短期的に労働者に及ぼす破壊的な影響を無視すべきではありませんでした。

英国のEU離脱(Brexit・ブレグジット)がヘッドラインを飾る中、オートメーションの静かなマーチは続いています。ほとんどのエコノミストは、このトレンドを好意的に捉えています。テクノロジーの進歩は短期的に仕事を奪いますが、長期的には新たなより付加価値の高い仕事を生み出すと彼らは口を揃えます。

オートメーションによる失業は不可避で、コンベアベルト、スパーのレジ、配送システムの自動化により、10人の労働者の内、1人の管理者だけで運用できるようになります。しかし、その結果起こりうる事態は不確かです。

一般的な経済の議論では、オートメーションによる失業は新たに生まれる雇用により徐々に埋め合わされるとされます。例えば、ノーベル経済学受賞のクリストファー・ピサリデス氏やMcKinsey Global InstituteのJacques Bughin氏は、オートメーションによる生産性向上は経済成長を早め、消費を促進するため労働需要を増やし、雇用を創出すると議論します。

しかし、この理論はあまりにも抽象的過ぎます。まず、「労力節約(labor-saving)」「労働増大(labor-augmenting)」、どちらのタイプのイノベーションかを区別する必要があります。自動車や携帯電話などの導入によるプロダクトイノベーションは労働増大タイプですが、生産方式の改良やプロセスイノベーションは労力節約タイプです。労力節約タイプのイノベーションは、これまでと同じ質と量のモノやサービスを、少ない労働者で生み出すことができます。

プロダクトイノベーションは、新たな製品の生産のための労働者が必要になる「代替効果(substitution effect)」により新たな雇用を生むかもしれません。そのため、最大の問題は失業者を増やし新たな雇用を生まないプロセスイノベーションになります。イノベーションにより生じた失業者のために新たな雇用を生むためには、企業が利益を増やし、新たな技術や製品開発に投資をするか、企業間の競争により価格が下がることで需要を増やす必要があるのです。

以上のような、イノベーションによる失業と雇用創出メカニズムがどれだけ早く循環するのかは、職業と地域間における資本と労働の流動のしやすさにかかっています。労力節約タイプのイノベーションは賃金低下につながり、労働者の消費を抑制します。そのため、イノベーションによる新たな雇用創出と消費の落ち込み、どちらが早いかが問題になります。ケインズ派経済学者は失業による需要の落ち込みが先行し、その結果オートメーションによる価格の下落を招くと主張します。さらにそれが、少なくとも短期的に失業率を高めると言います。

失業率の上昇が短期的な現象だとしても、労力節約タイプのイノベーションが続くと、長期的な失業率の高止まりを招くかもしれません。さらに寡占市場では、価格低下ではなくコスト節約による利益増大が出来てしまうため、競争による価格調整メカニズムが機能しなくなる可能性もあります。

オートメーションが長期的に雇用増大のメリットがあるとしても、そのメリットが現れるまでの「移行期間」があるのは確かですが、移行期間が数十年に及ぶのであれば、労働者が懐疑的になるのも無理はありません。マルクスはそんなメリットは、短期的にも長期的にもないと断言しており、彼の語る物語には労働者のハッピーエンディングが存在しません。少なくとも資本主義下においては。

マルクスは、競争が個々の企業の利益最大化のために、コストカットや機械化など、労力節約の投資を促すと主張します。しかし、機械化が資本家の大部分を潤す訳ではありません。最初に機械化に着手した企業は、一時的に低コスト化による寡占状態を謳歌でき、その過程で弱小企業を廃業に追い込めるかもしれませんが、競争が新たな技術を拡散し有利な状況は長く続かないからです。

マルクスは、利益が回復中には失業者予備軍が増えると主張し、機械化が労働者を路上生活者に追い込むと記述します。マルクスにとってテクノロジーと失業の関係は不可分で、好景気の時は失業者は労働にありつけますが、テクノロジーの進歩により長期的にはかつてない程の貧困をもたらすと予測します。マルクスは主流派とは違い、機械化は短期的に熱狂的な繁栄を生む代わりに、長期の停滞を招くという見方をしています。

テクノロジーの変化がどのような影響を与えるかの議論は、経済学者の間で長く議論されてきました。ジョン・ヒックスは1932年の著書『賃金の理論』で、「イノベーションの誘発(induced innovation)」について言及しました。ヒックスは、利益率を脅かす賃金上昇は、労働者を減らすビジネスへの転向を促すと書いています。つまり、オートメーションは単にコンピューターの発達がもたらしたのではなく、資本に占める労働コストの高騰がそうさせたのです。

技術的に複雑な議論になりますが、これまでの経済理論がテクノロジーの進歩が労働に与える影響を明確にしなかったことは確かです。現在ベストな結論としては、影響はプロダクト/プロセスイノベーションのバランス、需要と市場競争の大小、資本と労働力のバランスによって変わるだろう、ということが導き出せます。

それらすべては、政府が介入できる重要な領域です。政策立案者は、イノベーションが引き起こす短期的なインパクトを無視してはいけません。短期的に、歴史上の恐ろしいことが起こる可能性があるのです。

まとめ

長々と訳しましたが、結論が曖昧なもので少し残念な気がします。それだけ複雑なテーマなのでしょう。生産性向上がもたらす失業者の増大と消費の落ち込みは、重要ながら日本ではあまり話題になっていない気がします。

日本では労働力不足が大きな問題として取り上げられますが、実はテクノロジーの進歩で解決できる問題で、それより消費力不足がより深刻だと個人的には思います。「生産性を上げろ」との議論は活発ですが、それが労働者にどのような影響を与えるにかについては無関心な日本で、もっと突っ込んでいいテーマではないでしょうか。