大事な人が死んでからでは遅い。居心地の悪くなる映画『永い言い訳』

2016年の映画『永い言い訳』を観ました。原作は西川美和の小説で、著者自ら監督しています。主演は本木雅弘、深津絵里、竹原ピストル。西川美和監督といえば2006年『ゆれる』が印象的で、どちらの作品も普遍的な男のいやらしさを描いており、観ていて居心地の悪さを感じてしまいます。女性だからこそ見えてくる男の性なのでしょう。嫁さんからそんな性を見抜かれていると想像すると、少し怖い気がしてしまいます。

作家の衣笠幸夫(本木雅弘)は、別の女性と不倫中に妻の夏子(深津絵里)の死を知らされます。妻への愛情が冷めていた幸夫には悲しみの感情が沸き起こることなく、世間体を保つために悲劇の夫を演じます。一方で、同じバス事故で無くなった夏子の友人の夫、大宮陽一(竹原ピストル)は、幸夫とは対照的に悲しみと怒りの感情を爆発させます。そんな陽一を疎ましく思っていた幸夫ですが、仕事と育児の両立ができない陽一を案じて子どもたちの世話を買ってでます。陽一や子どもたちとの絆が深まってきますが、陽一がある女性と仲を深めることで疎外感を感じ、これまでの関係性が崩れていきます。

まず、冒頭の衣笠夫婦の会話にリアリティを感じます。美容師の夏子に髪を切られながら、幸夫はいちいち夏子の言葉に突っかかります。嫁に依存しながら、常に上から目線で素直になれない夫。それでも幸夫は、妻から愛されていると根拠のない自信があったのでしょう。妻の死後、妻からの愛はすでにかけらもなかったことを知り、取り乱します。自分は不倫に興じ妻を軽んじながら、妻も同じ思いでいたことを知り腹を立てる幸夫の勝手さ。これってきっと、普遍的な男の性なのだと思います。

幸夫にまだ救いがあるのは、陽一やその子どもたちとの交流を通じ、そんな自分の勝手さに気づき葛藤する勇気があったことです。きっと、あのまま妻との関係が続いていたら不完全な自分のまま生き続けなければならず、小説家としても成長しなかったのではいでしょうか。自らの経験を小説『永い言い訳』に著すことで、本当の自分と向き合うことができたのだと思います。本当はそんな自分を、妻が生きている間に見せられれば良かったのですが。人生の難しいところです。